凍結胚の移送は慎重に!

こんにちは、培養室です。

今春から不妊治療の大部分に健康保険が適用されたことにより、不妊治療に対するハードルがぐっと低くなったのではないでしょうか。
実際、当院では初診の患者様が保険適用開始前の3月ごろから増えています。
初診で来られた方の中には他院で体外受精をされていた方も多く、なかには凍結胚を他院に残されたままの方も相談に来られます。

転勤などの理由により転院される場合、凍結胚を転院先に移送したいと考えられる方も多いのではないでしょうか。
ここ最近、当院へ移送したいというご相談も何件か受けています。

ここで1つ、皆さんにお伝えしたいことがございます。

凍結胚を移送する場合、患者様ご自身にも手間と費用が掛かってしまいます。
本当に移送する必要があるのか、慎重にご検討をして頂きたいのです。

凍結胚の場合、凍結したクリニックで移植した方が、
手間も費用も抑えられる場合があり、また、移送のリスクを回避することができます。

凍結精子の場合は射出精子であれば、転院先で凍結しなおした方が費用を抑えられる場合があります。
一方で、射精が困難な方や、精液中にごく少量しか精子がいなかった方、精巣内精子採取術(TESE)をされた方については移送をお勧めします。

凍結胚を保管しているクリニックと転院先に相談して、実際にどのような手間と費用がかかるのか、一度確認してみましょう。

どうしても移送を希望する場合、凍結胚を保管しているクリニックに相談して、移送に関する承諾を得る必要があります。

移送に関しては施設ごとに方針が異なります。
持ち出し持ち込みが可能な施設もあれば不可能な施設もあります。
凍結胚を保管しているクリニックは持ち出し可能なのか、転院先は持ち込み可能なのか事前に確認する必要があります。
また、診察を受ける必要があるのかについても、それぞれのクリニックに確認する必要があります。

移送方法に関しては、近距離であれば患者様ご自身で運搬される方が費用を抑えられる場合が多いです。ただし、凍結胚は液体窒素中に保存されおり、液体窒素は高圧ガスに分類されているため公共交通機関への持ち込みは禁止されています。また一般の宅配便の利用も断られるため、徒歩や自家用車での運搬が基本となります。
多くの患者様は液体窒素の扱いに慣れていないと思います。しかし、運搬中に何らかのトラブルが発生したとしてもクリニックはその責任を負いかねます。運搬にはある程度リスクを伴います。

遠距離の場合は凍結細胞の輸送を専門に行う業者に依頼することをお勧めします。ただし、専門業者でも運搬には同じくリスクを伴うとお考えください。

多くの場合持ち出しには自費で費用が発生しますし、持ち込みの場合も自費で凍結保管料が掛かります。

持ち込みの場合、我々培養士が一番気にすることが凍結方法です。
国内の凍結方法の主流はvitrification法で凍結デバイスはシート状のものかと思いますが、それ以外の凍結方法や凍結デバイスも多数あります。
移送後に凍結方法や凍結デバイスが転院先では対応できずに融解胚移植ができないとなったら元も子もありません。
我々も事前に確認しますが、患者様も凍結方法や凍結デバイスの確認をお願いします。
当院では上記の理由により融解に対応できないと判断した場合は、持ち込みをお断りする場合もございますので予めご了承ください。

臨床研究中のPGT-A胚の移送はできません。

また当院で治療する場合、移植までの準備に要する診療や薬の処方は他施設で行い、胚移植だけを当院で行う方法や、逆に移植までの準備に要する診療や薬の処方を当院で行い、胚移植は他施設で行うといった、他施設との並行した治療は原則お断りしています。
ご了承ください。

最後に、当院では移送方法や日程調整、移送先との打ち合わせなど移送に関するすべての手続きを患者様ご自身で行っていただきます。
当院からの持ち出しの場合は凍結胚の確認と同意書への署名のために当日来院をお願いしています。

スムーズにお話が進むよう、しっかりと計画を立ててご準備くださいますよう、ご協力お願いいたします。