妊娠するために必要な卵子の数

こんにちは、培養室です。
お花見の季節がやってきましたが、新型コロナウイルスが心配です。
1日でも早く収束してくれることを願うばかりです。

以前、院長がこのブログ内で卵の在庫について教えてくれましたね。
非常に興味深い内容だったのではないでしょうか。まだ読まれていない方はぜひ読んでみてください。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)が卵子の在庫の指標の一つになっていることは院長も説明していました。
そして、年齢とともに卵子の在庫が減っていってしまうこともわかっていただけたかと思います。

では実際に、当院のデータからもAMHと卵子の在庫の関係を見てみましょう。

年齢別AMH値の分布

これは2011年から2019年の間に当院で初めて採卵した患者さまのAMH値の分布です。
このデータは不妊に悩み当院を受診された方のうち体外受精を受けられた方を対象としているため、一般的な女性集団とは異なり、かなりシビアな集団であることを付け加えておきます。
このグラフに各年齢のAMHの中央値を重ねると。。。

年齢別AMH値の分布と中央値

加齢に伴ってAMH値が右肩下がりになっているのがわかるかと思います。この傾向はこの集団特有のものではなく、ごく一般的な傾向です。

注目すべき点は、すべての年齢においてAMH値が限りなく0に近い方がいらっしゃることです。
40歳以上の方に関しては、この数値は年相応と言えるかと思いますが、若い方に関しては卵子の在庫が極端に少ないことを意味しています。

このように書くと、AMH値が低い若い方は「妊娠できないんじゃないか。。。」と不安に思われるかもしれませんが、AMHはあくまでも卵子の在庫の指標であって、AMH値=「妊娠できる力」ではありません。
このテーマについては別の機会にお話ししたいと思います。

話は戻りまして、
このグラフに採卵によって実際に回収できた卵子数の中央値を重ねてみると。。。

年齢別AMH値の分布と中央値および採卵数の中央値

採卵数もAMH値と同様に加齢に伴い減少していくことがよくわかるかと思います。
実際には採卵数は、年齢やAMH値の他に様々な要因に影響されます。
例えば、卵巣刺激の方法や使用するホルモン注射や内服薬の量、採卵前に卵子の成熟を促す点鼻薬や注射の効果、周期毎によっても異なりますので参考程度に見てください。

さて本題ですが、
妊娠するためには何個の卵子が必要なのでしょうか?

参考文献:Sunkara SK, Rittenberg V, Raine-Fenning N, Bhattacharya S, Zamora J, Coomarasamy A. Association between the number of eggs and live birth in IVF treatment: an analysis of 400 135 treatment cycles. Hum Reprod. 2011 Jul;26(7):1768-74

この論文によると、どの年齢においても卵子が15-20個の時に予測される生児獲得率がピークを迎えるとのことです。

当院のデータからもわかるように、40歳以上になると20個の卵子を回収するためには5回は採卵する必要がありますが、それでも生児獲得率は20%未満とかなり厳しいのが現実です。
また、高齢になるにつれ採卵したにもかかわらず卵子が回収できなかった、なんてことも起こりえます。

したがって、40歳以上の患者さまに対しては初診時から体外受精を強くお勧めしています。
また、治療の辞め時を迷われている患者さまは採卵数15-20個を1つの目安にされては如何でしょうか。

ここまで読んで頂いた採卵未経験の患者さまの中には「早く採卵して20個卵子を回収しないと。。。」と焦りや不安を覚えた方もいるかと思います。

しかし、タイミング治療や人工授精のような一般不妊治療で妊娠できる可能性が残されているなら、患者さまの肉体的・精神的・経済的負担を考えると、一般不妊治療で妊娠される方が良いと考えています。

今後の治療について不安に思われている方はナース面談培養士外来を利用されては如何でしょうか。きっと皆さまのお役に立てると思います。

当院に通院されていない方に関しては検査をしてみないことには何もわかりません。
不妊治療専門病院は敷居が高いと感じているなら、パートナーを誘ってまずはプレチェックからでも始めてみませんか?不妊治療は若いうちから始めるに越したことはありませんから。